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本当に、騙されていたのかもしれない。
ベッドに腰掛けながら膝小僧をぼうと見下ろしていると、オーバーヒート寸前だった脳も徐々に落ち着いて、それまで巡らせていた思考の偏りから僅かに逸れた考えが浮かび上がる。
ナミを『女神』と形容したサンジにとって、事実女は神であり、俗な好意を抱く対象ではないのかもしれない。
宗教心理に近い感覚か。
盲目には成り得ても、神に恋愛を求める信者は居ないだろう。
一握りの例外はあったとしても、神とのセックスなんて論外だ。
しかも、サンジは男でナミは女。必然的にサンジが挿れる方となる。
神に身体を差し出すならまだしも、肉を突き入れザーメンで汚すなど…。
あの男にはできない。
そういうことなのかもしれない。
駄目なのか。
気が抜けて、ぱたりと横に寝転がる。
彼には触れて貰えないのかもしれない。
別にそこいらの女のように、とろとろになる愛され方をしたいとは思わなかったが、
ナミが愛する形でなら、尚もサンジに触れたいと願った。
可愛い鳴き声にも、怯える仕草にもとても興奮したのだ。
サンジの快楽が高まる程にナミの肉体は熱を帯びていき、性感帯に触れる事無く絶頂を迎えようとした。
極度の不感症であったが故に、肉体同士のセックスではどうしても得られなかったエクスタシーをナミは初めて知ったのだ。
何故若い恋人達が性に溺れるのか、今ならわかる。
まるで、依存性の高い麻薬の様に、やめられなくなる。
信じられぬ程に気持ちが良かったから、もう一度…否、何度でも味わいたい。
桃色の薄い唇が、音を飲み込むいじらしさ。
そうすることで更に篭る熱に追い込まれてゆくサンジ。
可哀相な位に震えて、啼いて、泣いて。
もう一度、私の手で。
熱の残骸を下半身に求め、スカートの中に手を差し入れてみる。
湿った下着の表面を探って、しこることの無い陰核を柔らかな皮の上から弄った。
「………。」
少しだけ止めた息を吐き、ささやかな自慰を終える。
イクという感覚は相変わらず遠く、無反応な性器には形ばかり愛撫でしかない。
摩擦による刺激は期待や高揚感を容易く凌駕してしまうのだ。
感じる筈だとローションなどを用いて探ってみたこともあったが、肉をこねくり回したところで、耳たぶを弄るのとたいして変らぬ感覚しか得られなかった。
そこが痛くなるまで意地なって快楽を求める気持ちにはなれない。
絶頂もなく消えゆく熱の後味の悪さが連れるのは無力感だけで、余韻すら残らないのだから。
どうしたって、あの時の全身の経絡を巡って吹き荒れた快感に叶いやしない。
−−−きっと、サンジ君とでしか気持ち良くなれないんだ。
それを得ようとすれば、きっとまたサンジを泣かせてしまうだろう。
それにもう、サンジはゾロのものなのかもしれない。
それを仄めかす問いに、彼が答えることはなかったが。
−−−私って本当にセックスライフとは縁の無い人間なのね。
身体の奥の冷たい塊はなかなか消えてはくれなかった。
胸部だか、心だかにぽっかりと空洞が出来てしまって…。
泣きたくなる位に寒々しい。
水平に沈む視線の先で、本棚の足元に転がった金色の留め金が淋しげに光を弾いた。