良い天気だ。
風もそこそこあって非常に過ごしやすい。
ばさりと音がしたので何事かと見回すと、マストと前方デッキの柵とを繋いだロープにシーツを干すコックの姿。
おーおー、相変わらず所帯じみた姿だな。
んなもん女共にやらせりゃいいのによ。


ばさばさ。


………。


船尾甲板じゃ、ルフィとウソップがきゃーきゃー騒いでやがる。


…………。


…………………。


いけねぇな。
修行する気が全く起きねぇ。


くあ…。


欠伸にもキレがねぇや。


ばさり。


んー?ありゃ誰のトランクスだ。ゴムが伸びきってんじやねぇか。だらしんねぇ。
ルフィだろうなぁ、飯喰った後のアイツの腹は異常だもんな。
ま、コックが後で新しいゴムに変えとくだろ。


…何か引っ掛ると思ったら、コックの野郎珍しくTシャツなんぞ着てやがる。
しかもでけぇ。だぼだぼだぞ。3Lくらいあんじゃねぇか?そういやこの間サイズ間違えたっつって騒いでたな。
ラブコックにあるまじきダサさだ…。


びゅう!


「うわっぶねぇ…っ」


洗濯バサミで止める前の洗濯モンが煽られて、コックが慌ててそこらを抑える。


………。


ヘソ。


今、ちらりとヘソが見えた。


やたら股上の浅いズボンの上にくっきりはっきりちっちぇー孔が…。


やべぇ。


もっと見てえかも。


もう一遍吹け!風!!



………………。



だあああっ!
凪いでんじやねえぞコラァ!!


しかも蒸し暑くなりやがって!


畜生、コックの野郎は涼しい顔で洗濯干し続けてやがる。


ムカツクぜ。何かムカツク。


俺ぁ今ヘソが見てえんだ。クソコックのヘソがよ。生っちろい腹が。腰から胴に掛けての緩やかなカーブが!


この苛立ち、どうしてくれよう。


何か風を起こす方法は…。


………………。


…あんじゃねぇか、打って付けのが。


獲物を両手にゆらりと立ち上がった俺に気付いたコックが手伝えとか抜かしてやがる。
残念だが今の俺はそれどころじゃねぇ。


「鍛錬中だ」


ぜんっぜんしてねぇじゃねぇか!このごく潰しがぁ!!


ぎゃんぎゃん騒ぐコックの声も遠い。


ニヤリ。


見せて貰うぜ。もう一度テメェのヘソを。
そんな青褪めたって無駄だぜ。


すうう。


精神統一!




「龍」



「うおおい!待て、ゾロ!!」



「巻き!!!」




ゴオオオ!!!


吹き上がる砂塵。
舞い上がる洗濯物。
ずり上がるコックの…。


ピ、ピンク…。


おおお!
そこまで望んじゃいなかったがサプライズたぜ!!


顔を覆うコックの両腕までシャツが捲れ上がって乳首までも丸見えじゃねぇか!


いやー眼福眼福。
やる気が湧いたぜ。
今夜のおかず決定だな、こりゃ。


鉄串振ってくっか。


意気揚々と船尾甲板への階段を昇ろうとした俺の背後に何やらどす黒い気配が生まれた。


「待てや、ゾロ…」


ああ?


んだよ、俺ぁ今度こそ正真正銘鍛錬をしに…。


振り向いた先には幽鬼の如き形相で立つコックが。


「洗濯モン、みんなどっか行っちまったじゃねぇか」


お?


見渡してみれば確かに視界を遮るモンがねぇな。随分さっぱりしたもん



「全部拾って来い!!!」



コックの爪先が腹に食い込み口から胃が飛び出すかと思った次の瞬間、我等が羊船がみるみる遠ざかっていった。


や、俺が蹴り飛ばされたのか。


コックの野郎仁王立ちして睨んでやがる。
けっ、ピンク乳首のクセしやがって。


全部なんて無理に決まってんだ。
しょうがねぇ、泳いでる途中に見っけたもんだけ拾って帰るか。


たく、面倒臭ぇ。
ピンクのクセしやがってよ。
ちぇっ。