猛威となり迫り来る快楽の波に、これまで培った忍耐力を総動員してソルは抗った。
己を包む肉壁は恐ろしいまでのうねりと痙攣を繰り返し、まるで目の前の存在が雄の欲望を吐き出させようと筋肉組織を意識的に操っているようだ。それ程までに常軌を逸した動きでソルを翻弄して掛かる。まだ経験値の低い肉茎には過ぎた刺激である。
しかし、負ける訳にはいかない。
ソルの一方的な挑戦であるが、此処まで来たら最早意地のぶつかり合いだ。
必死になって少年の弱い部分を探った。

どこだ。
此処か。
まだあるだろう。
何処を突けばこいつを殺せる。

唯一の武器は己の肉体の一部であり、ひたりと寄り付く限界を振り払うも終わりが近いことは良くわかる。この性交を心地よく終わらせる為にも弾けてしまう前に敗北を思い知らせてやらなくてはならず、ソルは少年の様子を探りながら手前の前立腺、奥の腹腔側面の粘膜を硬いえらで擦りあげた。前立腺の刺激に対して顕著な反応を示すが、決定的な一打にはなっていない。女の様な啼き声をあげる余裕も無くなる場所…そんな部分を見付けられれば。

「はあ!」

ぐんっと最奥を抉った瞬間、生白い肉体が大きく仰け反り、真っ赤に潤んだ瞳が見開かれる様に、ソルの心内では歓喜の嵐が沸き起こった。

此処か!

ソルの陰茎が奥の奥まで到達してぶち当たる腸壁の窄まりを覆うように、先端の尖りがぴたりと嵌る窪みがコリコリと硬い輪郭に縁取られて息づいている。
不思議なことに其処に触れた瞬間液体の跳ねる気配があった。
先程腕を突き入れた時には気付かなかった。

何なんだろう、これは。

不思議に思いながらも、其処が少年の弱点には違いなく、ここぞとばかりに攻め立てる。
追求する余裕など今は無い。一回放出しているというのに、今にも精管を白濁の液体が突き抜けてしまいそうなのだ。
早くいけと念じ、次の瞬間には心地よさに喚き散らしたくなる。ぐらぐらと思考が揺れる。
天国と地獄をとてつもない速さで行き来しているような、尋常でないせめぎ合いにソルの口から獣の如き咆哮が上がった。

屈服させる悦びと肉の快楽以外何も無い。

ソルという生と形が質量を無くし、只の思念と成り果てる。

突き入れ、突き入れ、突き入れて。

視線の先で白い生き物がのた打ち回った。

赤い二枚肉から大きな陰核がちらちらと覗くのに、あそこにも後でもう一度入れてやらねばと考えるが、それが何かを喚いていても、ぱんぱんと肉の弾かれる音と混じって聞こえる湿った音に耳の慣れてしまったソルにはよく理解できなかった。
がつんと突く度に中の硬い肉輪が内側へと凹む。そしてその都度肉の薄い身体はぶるっと硬直し、凄まじい痙攣を伴って責め苛む物を締め付け。
初めに少年の淡い色彩で浮かび上がる幹から透明の汁がどろりと零れた。
そして、追う様にソルもまた。
一度放ったにも関わらず、数度に渡る大量の精液を少年の腸内へとぶち撒けた。
己の放った物で相手の中身が埋まり、与えたとも穢したとも取れる満足感が身の内に溢れる。

びくり、びくりと、二つの肉体は余韻に打ち震えた。

三分か。十分もいけたのか。間の記憶の不確かな挿入に一体どれだけの時間を費やしたのか検討もつかぬ。
そんな中で意識を正常に戻したのはソルが先であった。
まるで連続して大掛かりな儀式をこなしたかの疲労で深い呼吸を繰り返しながら、突っ伏していた身をのろりと起こす。互いの体に挟まれた少年の陰茎から滴る無色の体液が、ソルの腹にも付着し糸を引いた。

いってないのか…?

萎れた幹を濡らすのはどう見てもカウパー線液である。始終漏れ出ていたそれが最後盛大に溢れただけだ。ソルの表情が屈辱に顰められ、眉間の皺が深さを増した。ちっと舌打ちしても事実を誤魔化せる訳ではないから気は晴れない。
押さえつけられた細い腰は未だひくりひくりと反応している。
まるで瀕死の生贄みたいに消え入りそうな程の弱々しさで繰り返される震えにソルの尾てい骨の辺りがむず痒くなった。
それでも一度抜いて鎮めなくては翻弄される未来は目に見えていたから、ゆっくりと外す過程で少年の面を盗み見た。

「?」

今度は身を乗り出して、しっかりと少年を視界に納める。

「おい」

反応は無かった。
口を小さく開いたまま、涙に濡れた瞳は頸の据わった位置で只天井を向いていた。
まるで突然の死に晒された人間の様に、肉体の変化に耐え切れなかった意識だけが表層から転げ落ちてしまったのだろう。所謂失神状態であるが、白目を向く間も無く精神が肉体から切り離された状態が行為によって受けた衝撃の強さを物語っている。
それ程激しくしてしまったのか。
確かに半ば正気を失くしていたと自覚しているソルは、快楽より苦痛を与えてしまったのかもしれないという懸念に憮然とした。勿論少年との係わりで言えば特別不味い事でもないが、陵辱では無く合意の上でのセックスだという認識を持っている以上負けた気がしてしまう。
何にせよこのままでは瞳が乾いてしまうので、ずるりと身を引き抜き(こんな状態でも引き留めようとする内部の動きに閉口しながら)、ソルは少年を見下ろす形で脇に四肢を置いた。

「おい、起きろ」

ぺしぺしと頬を叩いた。
涙と汗と涎に塗れた顔は弾く度にソルの手の腹に吸い付いて離れる。
黒い前髪も額に張り付いて、頭部の三分の一の面積を覆う包帯は解け掛かっていた。

「おい」

もう一度頬を打つ。


その振動に微かに瞳が揺れ、漸く少年の意識は浮上する。少しばかり彷徨っていた瞳孔が僅かにずれた位置から眺める鷲色の瞳にかち合い、ゆるりと細められる。そうして、ソルもまた一つ視界の端にちらついたものがあり、それを注視した。
少年の口許が出来事の始まりに戻ったかの如く釣り上がっていたのだ。視線を掠めたのはだらしない半開きだった口角が歪む動きだったのだろう。
そのままで良かったのに。
己を認識した途端に厭らしいあの笑みを象る少年に、意味を見出せぬ気持ちの悪さを抱く。
それでも当初の様な激昂はなかった。これはこういう奴と諦めにも似た心持ちになったからだ。

「気持ち良かった?」

こんな娼婦みたいな物言いにも、慣れた。

「ああ、まぁまぁだな」

「ふふ、まぁまぁ、ね」

手錠で両腕を括り上げられた姿のまま。片目は矢張り潰れているだろうし、全身のそこかしこに巻き付いた包帯の、それでも足りぬ場所には青黒い痣が破壊された細胞の名残を晒していて、口許には気狂いの笑みが浮かんでいる。


だが、瞳も笑っているのだな。


それは事の前後ではっきりと分かれた特徴であった。
投げ出した細い足の内股を引かぬ快楽の小波に未だ震わせながら、
切れ長の瞳が更に細まって幼くけぶると、あの嫌な口許は只の微笑みとなった。

何故か。

何故かソルにはそれが堪らなかった。






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