夜中、寝返りを打てない煩わしさにトウヤはぼんやりと目覚めた。
建物の中心に位置する自室には月明かりなど届きもせず本当に真っ暗だ。そのまま寝入ってしまいたいのだが、どうにも下半身が重い。何かが股間の上に乗っかっている。
何か、などと今更過ぎるが。
上半身を片肘で支えつつブランケットを持ち上げて中を覗き込んだが暗くて何も見えなかった。
「キール、重いよ…」
そのまま、ぱったりとベッドに沈んだ。
確認するまでもなく、そこにあるのはきっとパートナーキールの頭部。そして薄いと茶化される茂みに埋もれて彼の指先も乗っかっている。
交接の時と同じ全裸で横たわる理由を手繰り、トウヤは一人眉間に皺を寄せた。
失神したまま熟睡してしまったのだろう。行為の最後の辺りは覚えが全く無い。
いつだって不覚をとらされるのは自分で、それがトウヤには不服だった。
わかっているのだけれど。
キールはいつだって不安を抱えて生きていて、いつトウヤに見放されるかと怯えて過ごしているのだ。だから衝動のままキールはトウヤに無茶をする。繋がりを確かめたくて、許される安堵を欲しているのだ。
父親に命ぜられるまま世界を破滅させようとした。それができる人間なのだと…普通ではないのだと、キールは今でも自分に怯えていた。トウヤにも怯えていた。力を束ねて魔王を退けた今でも。
だから、成る丈キールの求めには応じるつもりで、多少観念の捻じ曲がった行為にも付き合っているのに。
キールがトウヤの急所に頬を寄せて眠るのは積もり積もった不安の表れだ。
普段からも隙あらばトウヤの下半身(臀部や太腿や股間の肉付きの良い部分)に触れて過ごすキールの行為は子供が母親の乳房に安らぎを得ようとするのと同じなのかもしれない。
そんな仮定に思わず吹き出しそうになる。
だとしたら、何て大きな子供だろう。
そして。
馬鹿な子だね。
トウヤは目を閉じて下半身にぴたりと寄りそう男の硬質な髪を撫でた。
愛しさが溢れ出す感覚を君は知ってる?
早く気付いて。僕等はもう、溶け合ってしまっているんだって。
狭いベッドの上、身体を胎児のように折り曲げた窮屈な姿勢で眠るどうしようもない男に心の中でそっと語りかける。
おやすみなさい。キール。
明日が優しい日でありますように。