ココがイイの?
それとも、コッチ?
上の方と下の方では反応が違うのね。
下の方がナカに響く?

閉じようとする右足を左手で制し、椅子幅の限界まで広げながら、形良く伸ばした爪を会陰部に突き立てると、先端が硬く張ったトラウザーの布地に鋭く食い込んだ。そのせいで尚一層に深部へと届いた様で、怯えた瞳が零れ落ちそうに見開かれる。

「ひっ!」

びくりと痩身が跳ね上がった。
痛みと悦びのどちらをより強く感じているのか、眉根をキツク寄せた表情から読み取るのは難しいが、それを知ったとして解放する気は更々ない。ナミの目的はまだ果たされてはいないのだから。

痛めた箇所を労わる様に、五本の指を添えて優しく撫でた。その円を描く動きが、強引な攻めの所作よりも余程厭らしいとナミ自身で思う。

「何・で…、ナミさん、何で…?」

胸を大きく上下させてくたるサンジの言葉が途切れ途切れに宙を舞う。
刺激を和らげる愛撫が、漸く男に意味ある声を吐き出す余裕を与えたのだろう。
真っ赤に染まった目元の影響か、男の碧眼が僅かに色味を増した気がした。

「何で、サンジ君がこんなトコロで感じる事を、知ってるかって?」

こんな事をするのかではなく、何故他のスポットと比べ陰のポジションにあるこの部分に迷いなく狙いを定めたのか。

単語の欠落した問い掛けの内容をナミは的確に捉えて投げ返す。
感じ過ぎる男がちゃんと認識できるよう一旦動きを止めて、束の間熱を鎮める時間を与えてから答えを続けた。

「見ちゃったから」

戸惑う男の美しい空色を上目遣いに覗く。



「サンジ君が、ゾロに、ココを乱暴にされてイクところを」



ナミの瞳に映った男の面が大きく歪んだ。

今にも泣き出してしまいそうだが、ナミの感性はそれを好ましく捉えた。
普段から子供と大人を行き来する危ういこの若者の容貌には殊更似合う表情だと、そう感じるのだ。

堕落してゆく。

己の観念が捻じ曲がってゆくのがナミにもわかる。
男を傷付けている現実が、酷く薄い。

「まるで、身体の中で何かが爆ぜたみたいに仰け反っちゃって。あれ、ドライオーガズムって言うんでしょ?しかもアンタ、トラウザーズの上から布越しの刺激だけでイッたわよね。そんなにイイの?こんなトコロが」

男性が前立腺と呼ばれる内性器と密接した直腸壁へのマッサージで射精を伴わない絶頂を迎える事ができると、ナミも知識の上でのみ知っていた。
だが、臓器より明らかに厚い皮膚や肉に覆われた外部から、それも下着とスーツの生地越しの愛撫であるにも関わらず、男の熱は臨界点を突き抜けたのだ。

まるで、陵辱する側の人間が都合良くあつらえた肉体の様に。

ゾロという剣士の、この船で共に旅する仲間の指で、簡単にイッた。

「どんな風にされてたの?もっと強くされる方が好き?」

「違う!やめて!や!」

「私にも、イクところを見せて」

「ああぅ!」

何百キロという鉄の振り子でもって鍛錬を重ねる剣士の、凶悪な程に力強い指を想像し、ナミもまたサンジの内性器を乱暴に扱った。何度も反射的に閉じかける右足を押さえ付け、利き手でもって思いつく限りの虐めを繰り返している内に、嬲る其処が汗かそれ以外の体液が滲んだのか、しっとりと熱を孕んでいる事に気付く。
爪先が深く沈んだ部分は明らかに変色していた。
その布地の下は今どんな状態になっているのか、想像するだけでナミの腹も熱くなってしまうというものだ。大腿に挟まれた部分が厭らしい液体に濡れて、真っ赤に腫れ上がっているのかもしれず、それはとてつもなく淫靡な光景だと思う。
声を抑えようと必死になって噛み締められる唇が、その度に耐え切れず綻んで悲鳴を上げてしまう様子に、元来弱味を見せたがらない強情な人間の自我をささくれた傷を残す加減で爪弾いているのだという加虐心もまた満たされて、どうしようもない恍惚の境地に至る。


綺麗なモノをレイプしている。

私は、一体何者だ。


ナミという人間の形が崩れてゆく。
これまで、どれ程気の遠くなりそうな苦難に遭遇しようとも留めてこれた人格が、歪み、たわみ、凶悪な部分を突出させて化け物へと変貌してゆく。

もう、この男が焦がれた美しい姿はないのだろう。






−−−違う。これが私。






脱ぎ捨てた殻に男は嘆くかもしれないが、生きるとは概ねこういうことなのだ。