一人笑い通すソルに、少年は戸惑いの眼差しを送る。自身の言葉が、或いは声がソルの機嫌を損ねてきたのを思ってか、ただ黙って首を傾けた。その動きにつられて、笑みを収められぬまま少年を見上げたソルは、これまでとは真逆の反応を示す。
少年の顔を見て、また笑った。一入、深く息を吐き出しながら。

嫌ではなかった。

わだかまりの全てが解れたとは思わぬが、それでもソルにとって、少年の口許の貼り付けた笑いはそれ程嫌なものでもなくなっていた。
凄惨な経緯すら皮肉っているようではないか。

「お前、良いな」

「?」

訳がわからない。そんな不安がありありとした面に、ソルは掴んでいた足を放し、近付いた。

「シンプルだ」

息遣いまで伝わりそうな程に距離を縮められ、少年が息を呑んだ。

…良いよ、お前。

囁き、そして、厚い唇に己のそれを寄せた。


破滅的な遊戯の中で施された、それが初めての口付けであった。


軽く押し当てた口唇をそっと引き離したソルは、もう一度、今度は深く交わらせる。抵抗するでも積極的に答えるでもない唇をこじ開け、内部を舐った。くぐもった声音が口腔に響くのが心地良い。弾力ある肉塊を絡め取り、分泌される唾液の味を堪能した。何度も何度も擦り合わせている内に、堪え切れなくなったのか淫乱な少年の舌がソルの口内に侵入を果たす。噛み付く動きで揺らめく頭部は忙しなく、ソルの視界は真白な包帯と閉じられた右目と切り揃えられた前髪に覆われた。
必死な舌に余裕は感じられず、随分と荒々しくソルを求める。
繋がれた腕のもどかしさは極限に達しているらしく、手首に酷い痣が残るであろうことも構わぬ様子で強引に鎖を引いている。真鍮製のヘッドボードが引っ切り無しに軋み戦慄いていた。
拘束を解いたら、逆に襲われそうだ。
少年の啜りきれなかった唾液に糸を引かせて、腫れ上がった口唇から己を放した。

あ…、あ…、

玩具を取り上げられた童子の如き反応で、更に差し出すことの叶わぬ手の代わりに首を伸ばして名残惜しさを表す白い面はからかいたくもなるというもの。

「進めさせろよ。お前、キスだけでいいのか?」

途端に頬を染めた少年は俯き、その先に半ば立ち上がったソルの男根を見つけて、慌ててそれからも眼を逸らした。息が浅く、呼吸が速い。ソルは少年の期待を敏感に感じ取り、雄臭い笑みを浮かべて首筋に顔を埋めた。
前戯の手順を大雑把に辿り、下半身まで下りた後に太腿に手を添え、もう一度大きく開いた。
そして、使い込まれている癖に淡い色合いの蕾に舌を押し付ける。

「あ!」

上擦る声音は悲鳴に近かった。
一度解したそこに窄めた舌を突き入れ、襞の一枚一枚を丁寧に拭う。
少年の後腔に対する己の執着に薄っすらと感づいた。
元よりとんでもない性癖を持っていたのかもしれない。
儚げに揺れる幹に左手を伸ばし、舌を放して右の中指で肉蕾をなぞる。皮膚の盛り上がりを確かめ、埋まるか埋まらないかの微妙な加減で女の核を弄る様に円を描く動きを繰り返す。動きにつられて白い双丘もまた揺れた。啜り泣きは女のそれ。乱れた褥は淫靡な空気でむせ返った。

ゆっくりと呑み込まれた指を熱いうねりに逆らわせて引き抜き、そして差し込む。中指と一緒に人差し指も入れ、時折旋回と拡張を行った。先の無理な挿入による入り口の裂傷は痒痛しか生まぬようで、嬌声の艶やかさに曇りは無い。隙間より覗く内部は珊瑚色をしていた。
どこまでも深い洞穴が誘うかの景色に、自然、ソルも息を呑む。
己の欲に直結した部分が、奥へ奥へと、光の侵入すら許さない深部へと押し入る。その現実と違わぬであろう想像に、腹の下部がどくりと脈打った。

女は女であるが故に男を手厚く持て成すだろう。大小の陰唇は庭先にあつらえた薔薇のアーチだ。
洞穴の向こうの奥所では、融合すべき種の到着を何倍もの体積を持つ卵殻が今か今かと待ちわびている。
だが、少年のそこは違う。只々雄の意思一つで綻び広げられるのだ。何も生み出さぬというのに。
裂けた部分を舌でなぞれば、ぎゅっと窄まる。血を舐め取ってやる仕草を、ソルは丁寧に繰り返した。

狭間を伝い零れたものまで、その舌に擦り付け口内に取り込み、思い出したかのように大腿の付け根の窪みに口付けあやす。

「うぅ……っ」

心許ない喘ぎに、らしくなく心がざわついた。

身を起こしたソルは、少々弾んだ息を整え少年の面を覗いた。
濡れた睫が黒々と目立ち、潤んだ瞳はどこまでも深い闇の色。しかし、どこか幼く映る。

「入れるぞ」

己の中心が酷く充血してゆく感覚に気を取られたソルは、少年の口許の酷薄な歪みが薄れていることに気付かなかった。
ただ、こくりと小さく頷き微笑んだ少年の了解のみを理解し、立ち上がった自身に手を沿えて、先端を窄まりにあてがった。





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