幾枚もの薄肉が内へと篭り、また外へと返る動きを暫し眺めたソルは、己が手で角度を調節した逸物をぐぐ
っとそこに押し込んだ。緩く閉じた筋肉を巻き込み内へと挿入してゆく。それまでの性体験では使用したこと
のなかった器官に、放出への衝動が否応なく引き出されてゆくのを、喰いしばって堪える。女性器でさえ濡
れていなければ引き攣って痛むのだから、唾液で湿らせた程度の括約筋が特別美味とは感じなかったが、女の愛液の独特なぬめりを含まない“あっさり”とした味わいはそう悪くもない。
然程の抵抗もなく、ソルの砲身は全てを少年の中に沈めた。

この分ならまだ余裕はある。
ほっと息を吐き、安堵した瞬間、凄まじいうねりが食まれた急所を襲った。

狭い器官が蠕動しだしたのだ。痙攣を伴い締め上げられ、思わず少年の胴に額を引っ付ける程に腰を折り
曲げる。ぐうぅと、獣の如き呻きがソルの噛み締められた歯の隙間より漏れた。
僅かな油断が雄の芯を危うくさせた。
まだ動いてもいない。
それなのにこんなにも放出を促され、本流に飲まれそうになっている。

「ちきしょう…っ」

何て身体だ。

そう続けたかった言葉は放たれることなく無様に消えた。

「んん…っ」

そして、少年はぴくぴくと震えるだけのソルの陰茎に勝手に感じ、喘いでいる。
否、その唇を割らせる物は彼自身の淫猥なる戦慄きなのかもしれない。

落ち着け、
治まれ、
慣れろ。

己に言い聞かせ、苛立ち紛れから眼前に揺れる乳首にきつく噛み付いた。
ひぃと啼いて跳ね上がる白い肢体のより強い締め付けに何とか堪えて、肉を食んだ歯の隙間から細く息を吐き出した。駆け上る波が静まるのを待たねばやってられない。過去に経験した女の膣などとは比べ物にならない快楽にソルは怯んだ。
荒々しい呼吸と雄の脈動が静めるべく、眼を閉じて呼気のタイミングを計る。そうして気を散らせて何とかその場を凌いだ。
汗が引き温度が下がり始めて漸く、殊更己の自尊心を護る為にゆっくりと動き出す。肉壁の反射的な痙攣は収まっていないが、こそばゆい愛撫を受けているのでは思う程には大人しいものとなっている。落ち着きを取り戻しつつある互いの肉体にソルは一人、心中で安堵の息を落とした。
入れただけで達してしまったら、トラウマとなって二度とセックスなどできないだろう。
想像するだに悪寒が走る。
兄より秀でていなかったが故に不要と弾かれた現状にソルの半生は無残にも踏み躙られているというのに、これ以上傷口を増やしたくは無かった。例え、それが能力とは合見えぬ肉体の性能でなかったとしてもだ。己の欠陥など知りたくは無い。沢山だ。

「くそったれ」

その唸りは果たして誰に向けたものか。
目の前の少年は答えるでもなくただ甘くさえずるばかりである。
まるで自慰の様にこちらにはお構いなしで、ソルの激情等存在せぬも同然かに思える。
俺なんか死ねばいいと、心の奥に根付いた薄暗い思考は決して表立つことはないが、こんな風に他人が自分の側を無関心に通り過ぎようとする瞬間には、ずるずると底から這い出てきそうになる。
他人に必要とされない居たたまれなさに掻き消されそうになるなんて、それこそ青臭い悩みだ。ソルは冷めた表情でその思考を無き物にしてきた。
そうして生きてきた。
今こうして、悦楽を追い求めて腰を振り続ける時間が、同様の日常が、世界が終わる日まで続くのだろう。

少し、胸が痛んだ。
そう感じる自分は、大分精神状態が揺らいでいる…。

「あぁ…」

どこかぬるま湯に浸かる心地よさを想像させる声音で吐き出された少年の吐息に、深く沈んでいたソルの意

識が向いた。深海から海面へと顔を覗かせる気分で少年を見上げ、そこにあった気が抜ける程に緩んだ表情に自然と身体が弛緩する。
馬鹿みたいな顔だった。
こんなに酷い扱いをされて、今だって鎖で両手を戒められているのに、何故そんな顔で笑えるか。

「何て顔してんだ、お前」

うん?
そんな雰囲気で少年は首を傾げた。

「頭が涌いてるみたいだ」

「涌いてる?酷いな。ああ、でも…。ふふ、そうかも知れない」

少し上擦ったその声には、妙な浮かれが混じっていた。

「でも、そんなことどうでも良い。気持ち良いんだもの。ソルが僕の中で動くのが、凄く気持ち良い」

珍しくまともに成立した会話の最後に少年が呟いた。

幸せで、おかしくなりそうだ…と。

浸りきった顔で双眸を閉じ、下半身の局所を軽く締めては綻ばせる。

肉を柔らかく食み出した動きをまるで拙い戯れのようだと感じ、何とも言えぬ気分でそこと少年の面を見比べてから、今度こそ呆れて言葉を無くした。
性奴隷として囲われ、肌着すら纏うことを許されず、初対面の人間の前で股を開き自慰をしてみせる程に堕ちた少年の幸福の基準を理解できる筈も無い。異世界より召喚されてから今日までに一体どれ程の年月が過ぎているのだろうと、知る由も無い少年の過去に思いを巡らせる。
整えられた艶やかな黒髪や奥二重を乗せたまなこは一見思慮深い良家の子息にも見えるのに、その唇は紅くふくよかで何処までもいやらしかった。それはある種の者には堪らない懸隔であろう。歳を取らない獣はいつまでも若く美しい姿形のままで、衰えることのない彼の肌からニンゲンの欲が遠ざかることは無いのだ。

果たして世界の大浄化が行われた後も、この少年は生きられるのだろうか。
生命の保有がこの少年にとって幸福なこととは思えぬが、それでもこんな人生のままで終わるのは流石に哀れである。

自然と溜息が漏れた。
ソル…?と首を傾いだ面をしげしげと見つめる。

もし、父上が許より捨てる心積もりでいるのなら、
馬鹿な顔をしたまま、こいつは自分が不幸であることも気付けず逝くのだろう。

恐らくソルもまた近い未来に死ぬ。

儀式の補佐となれば魔界の大王を召喚せし瞬間に生ずる膨大な熱量に溶けて塵すらも残らぬに違いない。魔王の一部となり、それを操るべく存在し続けることができるのは器となるキールだけだ。






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