品定めをするように。少年の鈍く輝く瞳が立ち尽くすソルの視線に絡んだ。

「どうでもいいんだけど、ソレどうする?自分で処理する?」

好色の気配の滲んだ片目を細めながら、明らかに挑発している。

「何だったら、今度は僕が見ていてあげようか?」

生意気な。

「ペットのクセに…」

薄っぺらなプライドを守る為に、ソルは少年をそう貶めた。そこを突くしかなかったのだ。何故なら。

きっと、今の己は父親にとってこの少年程の価値も無いと。それを悲しい程に理解していたから。



敗北の怒りに突き動かされて、ソルは少年の身体に身を躍らせる。強く掴もうと追いかける手首は逃げ惑い、白い肉体がベッドの上に這い上がった。肩甲骨と浮いた背骨と、人が生活する上で最低限必要な筋肉が痩せた背中に凹凸を形作って滑らかに蠢いている。
圧し掛かり、首筋に唇を寄せ、手の平を肌に這わせて。一瞬ただその肉をめちゃめちゃに犯す妄想に囚われる。きっと狂い出した欲望をこの肉の器は際限なく受け止めるだろうと。それが許されるのだと思うとソルの精神は少年の些細な抵抗にも過剰に反応した。
包帯で覆われた頭を枕に押し付け、苦しげにもがく隙を狙ってベッドヘッドから伸びる手枷に左手を拘束した。
ここは調教部屋だ。
ベッドの四方に同様の枷が取り付けられていて。天蓋の中央からも吊るし上げる為の鎖とベルトが垂れ下がっている。
仰向けになった少年の右手も縛り付けて、漸く息を吐いて見下ろした。
縫いとめられた蝶はそれでもやはり嗤っていた。
わかっていた。途中から、少年がベッドを這いつつ枷へと導いていたことに気付いていたが、それでも衝動の荒波に思考力を奪われ、まんまんとその意図に乗せられた。

「この、変態が…っ」

吐き捨てるソルを見上げた少年の口角が更に吊り上がった。

そんな薄ら笑い、出来ないようにしてやる。

少年の笑みは『選ばれなかった』劣等感を酷く刺激するのだ。
鷲色の瞳を暗く細めて、ソルは少年の細い首筋に喰らいついた。



ねっとりと舌で耳の裏を撫で上げる。人の皮膚を舐る独特の感触と匂いに自然とソルの気分は高揚した。始めたばかりの段階では感覚も手順も女にするのと一緒で、以前身体の関係を持っていた若いメイドとのセックスを再現してゆく。愛撫の仕方を教えてくれたのは一つ上の彼女だった。セックスの時、彼女は一度はこう言った「焦らないで」と。
あたしは商売女じゃないんだから、貴方一人で楽しむのは駄目よ。そう言って濃紺の髪を色っぽく掻き上げた彼女とはもう三ヶ月も話していない。避けられているのはわかっていた。『選ばれなかった』自分は女にも振られたのだ。愛していた訳ではないが、それを別にしたって悔しいことには変わりない。
全ては『星のお告げ』が下ったあの日に変わってしまったのだ。

「ねぇ…、もっと酷くして、いいんだよ?」

甘く息の上がったテノールが耳にするりと滑り込んできて、一瞬誰の声なのか判別が付かなかった。
肉の薄い胸に膨れる粒を捏ね繰り回しながらも、男を抱いている現実を忘れそうになっていたようだ。
少年の身体は細くて折れそうで、少々肩幅のある女とならそう変わらないのではと言い訳をしたくなる。
立ち上る汗の匂いと石鹸の香りもソルは嫌いではなかった。香水のあからさまなセックスアピールよりは自分に合っていると感慨深く思う。

「痛めつけるくらいの気持ちでやっていいんだ。女を相手にするみたいに気を使うこともないし、傷だってすぐに治る。人体って意外に強くできてるものなんだから」

そこまで言い及んで少年がくすりと含んだ笑いを覗かせた。

「…ああ、この世界では僕は<獣>なんだっけ。ふふ。だから、遠慮いらないよ。そんなまどろっこしい触り方、必要ない」

ソルは答えなかった。ただほんの少し黙っていて欲しいと思う。触れる肌の感触は心地よくて、刺々しい言葉さえ吐かなければ中々具合の良い身体なのだから。

無言で胸部に押し付けている手の平に、内臓を支える肋骨が感触も生々しく当たった。矛にも盾にもなるべき筋肉が哀れな程に削げてしまった身体に急ぐことなく愛撫を施してゆく。
ツンと立ち上がった乳首を中指で押し潰しながら、途中軽く爪を立てると、上擦った声と共に一瞬身体が小さく跳ねる。這わせていた舌を耳に潜り込ませれば、酷く艶やかな喘ぎが漏れた。
思わず顔を覗き込みたくなって、やめた。あの表情を見てしまったなら興醒めしてしまうとわかりきっていたからだ。
できることなら、気持ちよくことを進めたい。

一通り首筋を弄った後、鎖骨へと唇の愛撫を下ろしてゆく。窪みに舌を潜らせ、骨沿って舌先を遊ばせた。ひくりひくりと返る反応は頻繁で、随分な感度の良さが伺える。それが素質なのか素養なのかはわからないが、抱く面白みに一役買っていることは確かだった。
指先で押し潰していた小さな塊をそっと口に含んでみると、どうやらこちらの方がお気に召したようで一際高い嬌声が上がり遠くで金属の擦れる音がした。乳首がめり込む程、力ませた舌先を押し付ければ僅かに腰が浮いて、立ち上がりかけた少年のものがソルの腹に触れた。

ソルは視線を下ろし、ソレの状態を確認する。
薄い茂みから生えたものは心もとなく揺れながら、今にも蜜を零しそうに容積を増している。
珊瑚色をしていて赤茶けたソルのものとは違う。かつて弄り回していた女の陰部よりも淡い色だ。
生白い肌やつるりと整った面と相まって、こういう本能に近い生々しい行為が酷く似合う存在だと思う。

淫獣。

そんな表現が頭を過ぎった。





                                                     参へ