音を立てながら凝り固まった小さな性感帯を吸い上げた。

「あっ」

じっとりと汗ばんでゆく身体。性交時特有の甘い匂いが淀んで纏わりついてくる。
右の指先で臍の位置を探り出し、そこから更に下へと指先を辿らせ茂み分け入った。

そこで暫しソルは逡巡した。
色は違えど己と同じ一物を握る行為に僅かな抵抗を感じたのだ。
しかしそれに嫌悪を抱けばこの行為は続けられない。そこそこ興奮し、己の身体も準備の段階を手順良く踏んでいるというのに、こんな中途半端に終わってしまうのは残念でもある。ソレを視界に納めずに事を進めるのは不可能だろうし、だったら少年の快楽を引き出す手段として割り切った方がいいだろう。ニ三度瞬く間に一通りの思考を終え、一人納得した面持ちで少年の幹に指を寄せた。

痛めつけるだけのセックスなら願い下げだった。それこそ性分に違えて継続する気も失せる。
声も良い。身体も良い。感度も最高。
同性であることに目を瞑ればこの少年は存分に自分を楽しませてくれる筈だ。

意を決したソルの指が少年の陰茎に絡みついた。
安堵にも似た溜息が少年から漏れるのを聞く。
ゆるりと扱き上げながら、左手は乳首に留まらせつつ唇を脇へと移動させた。
すると途端に右手に収めた熱塊が震え、緊張を示した右膝が怯えるように間接を曲げ身を縮めた。
はたと気付いたソルは脇の肋骨に舌先で触れてみる。

「んっふ…」

鼻から漏れる音色にそこ一体が敏感であることを知る。

──ふーん…脇が弱いのか。

散々弄られて腫れ上がった乳首から、左手を少年の右脇腹へと移動させ、五指の爪先で腕の付け根から脇腹までを往復させる。
面白い程に胸を仰け反らせて跳ね上がる。まるで陸に打ち上げられた魚だ。

「君、…意地悪だ。あっ」

そこばかりを嬲れば、動きの疎かになっていた右手にとろとろと透明な液が滴り落ちてきた。熱が増し膨れて震えるそこは涙を零しているようだ。

もしかしたら、脇だけでいってしまえるのかもしれない。

そう考えると大雑把に散在する泣き所を抱えた少年を哀れに思い、またほんの少し笑えた。
虐めどころの多い身体なんて、わかりやすくていい。
そんな翻弄され易く出来上がってしまった少年が可哀想で可笑しくて可愛らしかった。

陰茎を強弱で擦りながら、心臓に近い方の乳首を口に含み、左手で脇腹を優しく撫でる。
ソルの下で悶える少年の声が高い。年の頃はソルとそう変わらず、そこそこ低い音を紡ぐ声帯を持っている筈なのに、自然に裏返った声質は女の麗しい歌声のようだ。
トライアングルを象って攻め立てるソルの手管に、震える吐息が感覚を短くして切羽詰ったものになる。

「は、外してよ。これ。僕も、君に触れたいよ」

呼吸の合間に吐き出された声は泣いているようだった。
けれど、その訴えを顔すら見ようとせずにソルは無視した。
本当に泣いている訳でもないだろうし、またあの薄ら笑いで自分を見返すのだろうと、ソルも半ば意地になっている。
それに、戒めを解いてしまったら行為に慣れた少年に主導権を握られてしまいそうで、それは何としても避けたかった。この少年にだけは優位でいたかった。

ソルにとってこの少年を弄ぶことは、生きてきたままの時間の全てを捧げていた己を容易く切り捨てた父親へのささやかな復讐の意味もあるのだから。

本来の目的に立ち戻った意識がソルの眼光を冷めたものに変えた。

「…ソル?」

異変を察知したのか、それとも一瞬止まった動きに反射的に返しただけか。少年の声が初めて己の名を紡ぐのにソルは眉を顰める程の嫌悪を抱く。
気安く呼ぶなと腸が煮えくり返りそうだった。ソルの中での少年の位置づけは、いまだ父親のペットであり、雄の精液をぶちまけられるだけの肉壷でしかないのだから。

黙ってやられてろよ。てめぇなんか。

心中で口汚く罵られていることなど、欲に身を震わせる少年にはわかるまい。
ソルはそう決め付けた。
幾分緩んでいた神経が再び緊張し、舌先で転がしていた生ぬるい愛撫をやめて、鋭い犬歯で小さな肉を噛む。

「ひっ」

死にそうな声を詰まらせた少年の中心から熱い体液が迸り、ソルの着衣と自身の腹や胸をどくどくと汚した。突然の射精に驚き飛び退くも間に合わず、付着した汚れは容赦なく滴り落ちる。放たれた精液は薄く、瞬く間に被服に染みこんでゆくのが嫌だとソルは思った。

「勝手にいってんじゃねぇよ。汚れちまったじゃねーか!」

「ごめんなさい。ごめんなさい、ご主…」

反射的に口にしたかの言葉をはっと飲み込んだ少年に憎悪の念が込み上げ、気付けばソルの右手が高く振りかざされていた。
父親の趣味そのままの、少年の物など何一つ混じってなさそうな室内に、肉を打つ乾いた音が響いた。
頬を打たれた少年は勢いで枕に沈みそのまま顔を逸らした。その口角はやはり釣りあがり、まるで全てを諦め、ただ笑っているようだった。それがまた、ソルの癪にさわる。父親に笑えと命じられれば、自分もまたこうやって醜く笑うのだろうかと考える。そして、自己の証も権利も持たない己はこの少年そのものだと気付いた時、これまでとは比べ物にならないほどの憎しみがソルの胸中で渦巻いた。
同属嫌悪。
それは認めたくはない感情だった。
この少年と同列ならば、そこに生きる意味を見出すのは不可能だった。