迎え入れられた指は、第二関節までが容易く見えなくなった。
そこでニ三度間接を折り曲げ、鉤の形で入り口の盛り上がった筋肉を撫でてみる。
ぎゅうと締め上げる括約筋の強さに、ソルは口を尖らせひゅうと鳴らした。
ここに男根を入れたなら、エラの部分がひっかかってちょっとやそっとでは抜けないのではないだろうか。
それに思ったより中は狭く、濡れた感じがしない。女の内部よりも、粘着質だった。
ぬるぬるではなく、ぬちゃぬちゃ。そんな感じだ。
そうして何度か指を出し入れしてみるが、矢張りあるはずの臭気は無かった。
召喚獣とてこの世界の生き物と違わず生理機能は備わっている筈。しかもこんなに人に近い外見で諸器官も違わぬのなら、ソルが指を突っ込んでいる場所は肛門で、触れているのは直腸の筈なのに。

もしかしたら、常に体内を洗浄しておくように躾けられているのかもしれない。この部屋には浴室も備え付けられているから、そこで少年は一人準備をしているのだろう。
ソルの眉が自然に寄った。
主人が幾日も出払っている今でさえ、抱かれる側の嗜みを怠らないなんて、随分と出来たペットだ。そこまで忠実に仕立て上げられた少年の従順さに胸焼けがしそうだった。
何て自分の無い。
主義主張も無く、表情も変えず、ただ笑っている。
どう教育したら、一人の人間の意識からここまで<個 >を奪い去れるのか。
どうやったら、ここまで自分を捨てられる?

価値を見出せぬ自我に往生際悪くしがみ付いているから、こんなにも苦しいのだと理解はできている。
捨てきれない自尊心と自己愛が刃となって自己の輪郭を少しずつ削ぎ落としてゆく感覚がソルには常にあった。

例えばキールのように。
彼のように媚びへつらった笑みを浮かべることができたなら、もう少しくらい父親の関心を得ることができたのか。

己の芯を捨てられたなら。

差し入れた指をただ闇雲に掻き回した。
ねっとりと吸い付く内部の、その熱量は心地良かった。人が夏季の灼熱に悶えながらもセックスをやめられないのは、この安定した温度に親しみを覚えるからだろう。道徳心も羞恥も超越した快楽に身を委ねてしまいたくなるのだ。身を置く環境に追い詰められればそれだけ垣根は低くなる。

一本だった指を増やし、中指と人差し指で更に体内を侵略してゆく。第二間接を折り、突起部を作り出した指でそこかしこの肉壁をえぐった。男同士で使う器官であるといった程度の知識なら持ち合わせているが、実際にどこをどうすれば受身となる相手の快楽を引き摺り出せるかはソルには皆目検討もつかず、なるだけ間隔を空けず丁寧に撫で回す。時々捩れる肢体と入り口の収縮の加減に注意しつつ何度も何度も指を往復させていると、直腸器官の形状とは明らかに異なった膨らみを見付けた。丘の如く腫れ上がったそこに指を沿えて、つるりと撫でる。

「んっあ」

漏れた喘ぎは小さなものだが、吐息の延長とは違う明らかな快楽を含んでいる。どうやら性感帯に触れたらしい。どちらかと言えば好奇心から、ソルの二本の指がそこを攻め立てた。『待って』と懇願する少年を無視して、押し潰し爪で弾き、肉を捏ね回した。

「やめっ、や、め…っ」

がしゃり、がしゃり。鎖がのたうつ。

「変態。気持ち良いかよ“ココ”が」

声も低くなじれば、息を呑む気配と共に喘ぎが殺される。
脇でいってしまった少年の陰茎は瞬く間に力を取り戻して膨れ上がっている。溢れる蜜はやはり薄く、次から次へと幹を伝っては茂みも腹をもてらてらと濡らした。

「なぁ、お前もしかして、こっちだけでいけるのか?指だけで?」

振られる形の良い顎が視界を掠めた。肯定の証か、それとも快楽の表れか。

「いけそうだよな。へぇ、入り口だけでも感じるんだ。イイトコだらけだ。お前がもし不感症なのにこんな生活を強いられてんなら少しは同情するけどさ。好きならそう悪くも無いんだろう?それなりに楽しめんなら」

少年の人格を無視した無礼極まりない言葉だと承知しつつも、罪悪感などは微塵も感じない。笑いながら乱暴に核を弄った。まるでそうする権利が自分にあるように、少年の表情を覗き見ることをしなくなってからソルの意識は急速に制御を失っていった。
いつでも殺してしまえそうな、そんな錯覚すら起きそうだ。
誰かを傷付けずに生きることなど不可能だと知っていて、そしてそれが正しいことも確信していたから、何となくソルは彼を選んでみた。
破壊の対象に彼を。
この少年を。
…まずは肉体を、壊してみたいと思った。

二本の指を不意に引き抜いてみれば、呑み込んでた物を失ったそこは僅かに口を開いたままで、足りないとでも言いたげにぱくぱくと蠢いた。ソルは口角を引き上げた稀に見るほどの残忍な笑い顔でもう一度指を挿入してゆく。中指に人差し指、それに薬指を沿えて、少しずつ押し入れる。根元になるにつれ容積の増してゆくソレを少年の後口は懸命に頬張り、厭らしく体液を滲ませて進入を促した。限界まで達した指を陰茎のピストン運動を真似て動かせば、絡みついてくる腸液が幾らでも潤滑剤の役割を果たしてくれる。女の愛液のような溢れるまでの量では無いが、それは大した問題ではなかった。少年の殺しきれぬ嬌声がそれで充分だと伝えてくれる。
少年の身体は、男が楽しむのに実に都合よく出来ていた。排泄器官が本来の機能の為ではなく、全く逆の、外部から詰め込まれる為にでもあるように。





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