何をするかを心得た少年が、ソルを見上げて次の行動を待っている。初めて遇った日に心を覗かれる錯覚を抱かせた闇色が濡れて光を弾いてた。無くした左目を覆う包帯に一緒くたに包まれた頭部にそっと左手を乗せ、後頭部を探り掴めそうな部分を探した。しかし丁度具合の良い部分が見付からず、仕方無しに右即頭部の上部に落ち着くと、ストレートの柔らかな髪を握って引き上げる。連なり持ち上がった白い顎と肉厚な唇に半立ちの股間を押し付けた。「んっ」と呻く少年に「やれよ」と短く命じた。今更“ぶられた”ところで可愛げなどあったものじやない。
躊躇いがちに開かれる口唇に未だ伸びきらぬ皮に首を隠した亀頭を捻じ込む。

「ぁんっ」

苦しげな呼気を漏らす口腔には唾液が溢れ返り、瞬く間にソルの陰茎を透明な粘液で包み込んだ。
慣れた手管で歯を立てるなどの失態もせずに、すぐさま順応して舌を押し付けられる。窄めた入り口と内部、三枚の筋肉性器官が奥へ奥へと総動員で誘った先には、細かく震える塊があった。

「!」

驚き思わず腰を引き見下ろせば、そこには肉を頬張ったまま妖しく笑う淫獣の面。ぬらりと煌く瞳をうっとり細め、まるで極上のフルーツにむしゃぶり付いているかの如く恍惚を浮かべている。

大丈夫、恐くないよ。ほら…

そんなふうに促された気がして、躊躇しながらも腰を進めてみた。ぬるぬると吸い込まれてゆく幹が受ける熱と感覚は凄まじい。それだけでも大した快感が伴うのに、先端が行き止まりに突き当たればそこにもまた欲を追い上げる何かがあった。

「う・おッ」

含んで篭る吐息や唾液を飲み下す器官の動作に連動するその塊の柱は不規則な動きで震え、敏感な鈴口をピンポイントで刺激した。今まで味わったことの無い快感にソルの戦慄は止まらない。許容範囲外だと痛烈に思った。喉彦まで性交の道具にしてしまうなど、素人女しか相手にしたことの無いソルには考え及ばぬ領域だった。
スライドを始めた頭部の動きが、絡みつく舌と締め付ける二枚の口唇、窄められた口腔がソルの局部を鍛え出しす。嫌らしい音を立てて少年は舌技を尽くした。啜っては喉の奥へと誘い、喉彦で刺激する。そのタイミングは絶妙で、ソルは早々に白旗を揚げた。
くっと呻いて、口内に迸らせる。引き抜く余裕すら与えられなかったのが悔しい。どくどくと体液を打ち付けて最後の一滴まで搾り出せば、粘液を飲み下す諸器官の動きに再び舐られ慌てる。それを何とかやり過ごして、やっとの思いで卑猥な咀嚼から解放された。
男を到達に導いたけたのが嬉しいのか、それとも主人の不在に乾いていたのどが潤ったからか、少年はソルを見上げて目を細めた。嬉しげにけぶる両眼に居たたまれなくなり、不機嫌を色濃くしながら顔を逸らす。切羽詰った放出の後で実に気まずい。優位が僅かにでも崩れてしまったことがソルには堪らなかった。

無言でベツドを移動したソルは少年の足を大きく開き、膝が両腕の付け根に触れる程に細い腰を折り曲げた。元々肉も少ない少年の腹は難なくくの字にひしゃげ、真白な臀部が惜しげもなく晒されるが、こちらは然程肉付きは悪くは無く、片手で掴んでみればしっかりとした丸みがあった。まるで貧相な女の尻だとソルは思った。男にしては柔いのではと感じるが、女と比べればボリューム不足であることに違いは無い。
掴んだ肉を捻じりあげて狭間を開いて覗き見れば、先程の暴行に傷付いた秘部の血は乾きかけていた。しかし、このまま押し入れば再び溢れて零れるだろう。少年の受けるであろう痛みに少し眉を寄せるが、さりとてここで止めるつもりもなかった。そんな良心が残っていたなら、裂けるのを承知で腕を押し入れたりしていない。
腸液も赤い汚れも乾いた己の腕を流し見る。望みを遂げることも叶わなかった惨めな腕だ。こんな、繋がれた生餌を散らすことしかできない。

餌を貪り喰らう。
ならば己は飼い犬か。
何の?
誰の?
しいていうなら運命という名の絶対的な…。

それならば充分に飼いならされている。己は優秀な犬だろう。多くの蔑みと父親の無関心に晒されつつも、こんなにも見事に転がり落ちて、哀れな肉を慰み食みながら尚生きているのだから。

肉を。

ソルは溜息も吐けずに息を止めた。

厚い瞼が二重になって瞳の黒が増している。厭らしく濡れた唇を舌先で拭いながら実に嬉しそうに笑う少年を見つけて、ソルの背筋に嫌な汗が流れた。

その厚く熟れた口唇の暗示するもの。


生きる為に。


…俺の全ての行為にそんな高尚な意味などあるのだろうか?


これまでの、駒たるべきとの教育を施される過程で最も恐れた未来は何であったかを、ソルは眩みゆく感覚に溺れながら考え巡らせた。
それは自身の根底を揺るがす思考である。
人は何故生きるのか。何者であるのか。そんな明確な答えなどあろう筈の無い問題を直視するのと同じ、青春の青臭さから抜け出せぬ愚か者が陥る安易な迷宮だとソルは馬鹿にしていた。

恐れた未来は、雑巾の如く捨てられる惨めさだ。
そして、空腹に悶えながら、のたれ死ぬ末路。
寒風に晒され、酷い体臭を放って道端に転がるのだ。
スープやパンを思い描いて。

いつだって死よりも先に飢えがあった。

次の飯にありつく為に俺は頭を垂れて、父親にへりくだっていたとも言える。
言い換えれば腹が膨れればそれだけで生きてゆける…。

生きてゆくだろう。この少年のように。

ただ、それだけのこと。


散々汚されて傷付いてきた少年が今、食道器官を流れ落ちた精液に満たされて笑う単純さの連続で、ソルもまた生きているのだ。

「は…っ」

笑い出したくなって、ソルは必死に歯を食いしばった。
確かに全身全霊で挑んだ大儀の中核選考からは転がり落ちた。…生来の夢を断たれた?それが何だというのだ。そんなもののどこにも己の本願は含まれていないではないか。全て父親の望みでしかない。

この少年と同列ならば、そこに生きる意味を見出すのは不可能だと思っていたがとんだ驕りだった。
そうではないのだ。

微生物の生存本能と同等の、短絡的かつ原始的な構造こそがソルを生かしてきた要素だ。

それこそがソルの糧。他人に飾り立てられた自尊心を踏み潰されたとて、…そう、取るには足らぬ。





                                                     拾へ